カルミナ・ブラーナ@サントリーホール
- 2024.03.15 Friday
- 23:18
今夏、所属合唱団ではカルミナの演奏を予定してるが、その前に他楽団でも演奏があり、そのひとつが今日のサントリーホールでの演奏だ。
久しぶりのカルミナ実演を聴くため期待するものがあったが、一言でいうと、これまで少なくとも20回以上は実演に接してきた中で、今日の演奏ほど、作曲者の意図を踏まえ、曲の持つ魅力を引き出した、完成度の高い演奏に接した記憶はない。
全曲を引っ張ったのは、合唱を担った新国立劇場合唱団だろう。
総勢60名(男声28、女声32)で「若干少ないかな?」と思ったりしたが、1曲目「O Fortuna」を聴いたとき、自分の先入観が誤りであったことに気づいた。音量的に全く問題がないばかりか、発音にも切れがあり、「-ッィス」やrの巻き舌がよく飛んでくる。
続くどの曲も、ffはコントロールされ、ppは室内楽的な響きを持つため、ダイナミックレンジが広く感じられる。またリズムはあくまでリズミカルであり、音の波に乗り続け、曲最大の難所である14曲目「In taberna quando sumus」も明瞭に難なく歌いきっていた。そしてクライマックスともいえる24曲目「Ave formosissima」はffであるが、余裕あるffであるため、聴いている方も切迫感なく心地いい限り。
ソリスト陣も申し分ない。
バリトンのミケーレ・パッティは11曲目「Estuans interius」や13曲目「Ego sum abbas」で掘りの深い歌唱を聴かせ、カウンターテナーの彌勒さんは12曲目「Olim lacus colueram」でぬいぐるみの白鳥を抱えながら、丸焼きにされる白鳥を熱演。
ソプラノのヴィットリアーナ・デ・アミーチスは23曲目「Dulcissime」で、引き締まった、余裕あるD6の高音を聴かせた。
そして忘れてならないのが、酒場での大騒ぎ?のあと、恋の庭で繰り広げられる男と女の駆け引きを導くかのような、甘美なメロディーで奏でられる15曲目「Amor volat undique」での世田谷ジュニア合唱団(22名)による、澄み渡った響きの児童合唱も称賛に値する。
そんな充実の出演者を統率し、公演を大成功に導いたのは、何といっても、そのエネルギッシュさと音楽センス抜群の首席指揮者アンドレア・バッティストーニの力量だろう。
これまで何回か彼の演奏を聴いてきた限りでは、オペラ、声楽作品、シンフォニーとどんな分野でもマルチな能力を発揮する指揮者という印象だが、そんな彼が今回の演奏に当たり、いわゆる「カルミナ三部作」のことを意識していたのかどうかはわからない。しかし、少なくとも三作品を貫く共通言語は意識していたのではないだろうか。それは下記のような箇所にこれまで聴いたカルミナとの違いが現れていたことからも見て取れる。
まず、5曲目の「Ecce gratum」では同じようなメロディを3回繰り返すが、楽譜上は回を増すごとに速くなっていく指定(二分音符=120→132→144)だが、実演でこのことを意識した演奏を聴いた記憶はあまりにない。しかし、今日は忠実に再現したかのように回を重ねるごとにテンポが上っていった。このことによって、音楽に新たな流れができた。
次は、7曲目の「Floret silva」。その女声合唱では二分音符が三小節に渡って続く箇所(ubi est antiquus,Gruonet der walt,wa ist min geselle)があるが、乙女心を表現するかのように、グリサンド風で音を連ねて音のうねりを作っていった。
そして、8曲目の「Chramer,gip die varwe mir」では、乙女心を歌った後、男声陣のハミングが続くが、乙女心に心寄せるように、ハミングに合わせて男声陣が左右に体を揺らすことによって、視覚的に訴える効果があった。
いずれもちょっとしたことだが、聴衆の五感を大いに刺激したことは間違いない。
終演後、満員の会場内が拍手と大歓声に包まれたのは、今日の演奏を聴けば誰もが納得するものだった。20分程度は拍手鳴りやまずだったろうか。次に驚いたのは、アンコールとして、冒頭の「O Fortuna」が演奏されたことだ。こんなことは前代未聞、たぶん今後の演奏会でもないであろう。
カルミナ・ブラーナはその音響的な効果もあり、それなりの頻度でアマチュアでも演奏機会があるが、その印象を一言でいえば、100名超の人数で力任せに突き進む印象が強い。そんな固定観念、ステレオタイプ的な側面を打ち消したという意味で、カルミナの歴史的演奏会ともいえる演奏に立ちあえたことを喜びとしたい。
〈データ〉
東京フィルハーモニー交響楽団 第999回 サントリー定期シリーズ
2024.3.15(金) 19:00
レスピーギ:「リュートのための古風な舞曲とアリア」第2組曲
オルフ:世俗カンタータ「カルミナ・ブラーナ」*
指揮:アンドレア・バッティストーニ
ソプラノ:ヴィットリアーナ・デ・アミーチス*
カウンターテナー:彌勒忠史*
バリトン:ミケーレ・パッティ*
合唱:新国立劇場合唱団*
児童合唱:世田谷ジュニア合唱団*
【料金】 A席 8,500円