パルジファル@東京文化
- 2012.09.13 Thursday
- 23:25
今回聴こうと思ったのは、なんといってもマエストロ飯守が振るからだ。
6月には「オランダ人」をご一緒させていただいて、マエストロのワーグナーへの造詣の深さ(もちろんワーグナーだけではないが...)を身を持って感じたことも大きい。
作品のあらすじを前もって読んでおいたぐらいしか、作品への知識がないまま、休憩入れると5時間を越えようかという演奏を聴くことに対して、「最後まで集中して聴けるかな。。。」との懸念はあった。
しかし、演奏終了後、そんな懸念は杞憂に終わった。
なんという深遠な、なんという静寂な、なんという敬虔な世界。
誰もが心の奥底に持っている犠牲的精神、他者への愛という根源的な心の世界を揺さぶり続ける。そのためか、「次はどんな音楽が奏でられるのか」という期待感の連続。
指先の神経を研ぎ澄ますような、ささやく小鳥のさえずりに耳をそばだてるような、繊細な感覚。
一音一音、一小節一小節が大切に奏でられ、確かで豊かな音となっていく広がり。
これこそワーグナーが意図した音の響きであろう。「舞台神聖祝典劇」と名を冠した思いも余すところなく伝わってくる。
マエスロト飯守と読響のコンビはそんな類まれな演奏をやってのけた。出だしこそ慎重に歩き出した感があったが、第一幕の中盤以降は完全に音楽を自らのものにしていた。音の粘り、響きの豊かさ、音のバランスどれをとっても言うことはない。聴いている方もいっしょに呼吸している感だ。
ソリストも粒ぞろい。いずれの配役もピタリ!全員のレベルが高い位置で揃っているのもいい。しかしあえて一人賞賛するなら、やはり黒田さんだろうか。力強さと美しさを持ち合わせたその声の魅力は尽きない。
第一幕を中心として展開される合唱も出色。あたかも大聖堂で歌われているかのような響きだ。
改めて今回の公演を振り返ってみても。。。
出演者全員をワーグナーの世界に導き、最高の舞台を提供できたのは、作品の核心を十二分に熟知し、熟達したキャリアと人間的な豊かさの絶妙なバランスを併せ持つマエストロ飯守だからこそ達せられたの感。
併せてワーグナーという作曲家の途轍もない大きさを思い知った。
聴き終った後に来る癒された心模様、思わず自らの顔が微笑んでいる幸福感。こんな気持ちにさせる音楽もそう多くはない。
〈データ〉
東京二期会オペラ劇場
バルセロナ・リセウ大劇場とチューリッヒ歌劇場との共同制作
東京文化会館
指揮:飯守泰次郎
演出:クラウス・グート
ティトゥレル:小田川哲也
グルネマンツ:小鉄和広
パルジファル:福井 敬
クリングゾル:泉 良平
クンドリ:橋爪ゆか ほか
管弦楽:読売日本交響楽団
【料金】 C席 10,000円