「ファウストの劫罰」、この大曲を自分が演奏できるチャンスが来るとは数年前までは思いもしなかった。
曲自体は合唱CDを買いあさった80年代から知っていたが、そうそう普段から聴く曲でもないため「どんな曲だったかなあ?」と思い出すためにも、久し振りにCDを聴いてみた。あまりにも有名で時折単独でも演奏される「ハンガリー行進曲」はさておき、久しぶりに聴いた感想は「ハチャメチャな曲」。
「ほんとにこんな曲が歌えるのだろうか?」とまず自問自答。また歌詞はフランス語。「カルメン」抜粋等の経験があるとはいえ、歌詞量が圧倒的に違う。そもそもアマチュアがフランス語の歌を歌う機会はほとんどないに等しい。加えて男性にはうれしい?男声合唱満載。「演奏」という作品完成までには越えなければならないハードルがいくつも用意されている感である。
練習が進んでも、最後まで悩まされたのはフランス語の発音だろうか。練習開始当初にフランス語の発音指導を受けたとはいえ、「それっぽく」聞えるようになるには時間がかかる。”発音の近似値”をカナ表記して楽譜に書き込んだが、何回修正したことか...
そんなこんなの修練の甲斐あって結構歌える状態となったところに最終指令。「本番は暗譜で!」
たしかにオペラに近い作りの部分もあるので譜持ちで歌うような曲でもないことは事実。最後の追い込み自己練習だった。
また、時間を作って原作のゲーテ「ファウスト」をこれまた何十年ぶりかで読んでみた。部分的には理解できるが、到底一度では理解できる内容ではない。演奏の際の参考になったようなならないような感じだが、漂う”雰囲気”や”香り”は吸収できた気がした。
さて本番。「シティフィル300回定期」という記念すべき演奏会でもあるのでオケも合唱も気合十分。そこにソリストの熱唱が加わり、マエストロ高関がスケール大きな指揮ですべての力を結集した。自ら言うのも気が引けるが...力演だった。
満員の聴衆からの惜しみない拍手の連続、そしてついにはスタンディングオヴェーションの方も何人も。
そんな光景を見ると、個人の出来などの反省はともかくとして、何がしかのメッセージが伝わった喜びで満ち足りた気分に。
終演後の記念パーティでマエストロ高関は「この曲最近はあまり演奏しないが、70年代には師である小澤さんの指揮で何回も見た。自分もこの作品が振りたくて指揮者になったようなものだ」と思いの内を吐露。
(最近も演ってないことはないが、自分も随分と聴いていない。手元に保存してあるパンフレットを調べてみるといずれも80年代。
'84 のジャン・フルネ/都響、'85の小澤征璽 /新日本フィル、'87のデュトワ/N響。演奏機会をだけみると、マーラーの「千人」と逆の傾向???)
不思議なもので、あれだけフランス語で苦労したのに?苦労した甲斐あってか?今となってはフランス語が体に入って、抵抗なく受け入れられる気がする。熱いうちにフランスオペラを聴きこんでみようかな...
また、一度演奏すればどんな作品でも愛着が湧くものだが、特にこの作品はワーグナーと同じように一度やったら病み付きになるような怪しい魅力を湛えている。
もう一度演奏するチャンスを!...そんな儚い期待はそっと胸にしまい込んでおいたほうがいいのだろうか? 思いが募らないうちに...
P.S. この曲、CDとしてはそれなりに出回っていて、いわゆる「お薦め版」もいくつかあるが、数点聴いて個人的に意外に???いいと思ったのはケント・ナガノ/リヨン歌劇場の盤。合唱よし!ソリストよし!で全体のバランスもいい。ケント・ナガノの力量大。一聴すれば納得。
〈データ〉
東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団 第300回記念定期演奏会
2016.9.10(土) 14:00
東京オペラシティコンサートホール
ベルリオーズ:劇的物語「ファウストの劫罰」
指揮:高関 健
ファウスト:西村 悟
メフィストフェレス:福島 明也
マルグリット:林 美智子
ブランデル:北川 辰彦
合唱:東京シティ・フィル・コーア
児童合唱:江東少年少女合唱団