新春恒例のNHKニューイヤーオペラコンサート。「対の歌声 終わらない世界」と銘打たれた今年は、基本的に2曲づつ紹介しての進行となった。
「対」だから2曲づつの紹介だろうが、制作の意図はともかく、企画としては何を伝えたいのか全く理解できなかった、そして楽しめなかったというのが正直なところだ。
その原因は、無理やり2曲を関連付けて紹介し、連続してのパーフォーマンス。これでは1曲目がいかに秀逸なパーフォーマンスであったとしても聴衆は2曲目が終わるまで拍手もできない。それは歌手の皆さんも同様で、1曲目を歌った方は聴衆からの反応を知ることもできない。これでは会場も盛り上がったとは言い難い。企画側の自己満足の世界と言われても仕方がない演出だ。
案内人の磯野アナも、いつもと違う髪型と衣装、そして少し暗めの声で台本を読みつづけ、「混迷を深める世界」を音楽と関連づけようとしたのだろうが、ニューイヤーオペラコンサートでそこまで考える必要があるのかどうか...
"日常ではない華やかなオペラで新春を祝おう"ではだめなのだろうか?
そんな中でも歌手の皆さんは精いっぱいのパーフォーマンスだったが、中でも秀逸だったのが、前半は「オルフェオとエウリディーチェ」を歌った、藤木さんと砂川さん。近年富に評価の高いお二人だが、ともに役柄に没入し、伸びやかで明瞭な歌唱だ。
後半は何といっても「サロメ」を歌った森谷さん。確かな演技力と深みのある声は今やなくてはならない存在となった。
日本人オペラ歌手の歌声に酔い、最後は全員で「乾杯の歌」で華やかに終わった時代がなつかしい...
来年以降はコンサートを始めた趣旨を検証し、原点回帰を期待したい。
〈データ〉
第66回 NHKニューイヤーオペラコンサート
2024.1.3(水)19:00〜 21:00
NHK Eテレ
? ヘンデル作曲 吉松隆・上田素生 編曲:「メサイア・ファンタジー」 ※世界初演
(バリトン 大西宇宙、合唱)
➁ ヴェルディ:歌劇「アイーダ」から「清きアイーダ」 (テノール 笛田博昭)
? ヘンデル:歌劇「ジュリアス・シーザー」から「この胸に命ある限り」
(ソプラノ 森麻季)
? グルック:歌劇「オルフェオとエウリディーチェ」から「なんとつらい時間 残酷な運命」〜
「エウリディーチェを失って」 (カウンターテナー 藤木大地、ソプラノ 砂川涼子)
? ワーグナー:歌劇「タンホイザー」から「私の歌は君のためのもの」
〜「裏切り者よ 出ていけ」(テノール 福井 敬、メゾ・ソプラノ 谷口睦美)
? ヴェルディ:歌劇「オテロ」から「無慈悲な神の命ずるままに」(バリトン 黒田 博)
? プッチーニ:歌劇「トスカ」から「テ・デウム」 (バリトン 須藤慎吾、合唱)
アルヴォ・ペルト:「鏡の中の鏡」/大石裕香 振付 ※世界初演
【上山榛名、水城卓哉、宮本 萌{貞松・浜田バレエ団}】(舞踊)
(チェロ 遠藤真理、ピアノ 松田華音)
? ムソルグスキー:歌劇「ボリス・ゴドノフ」から「戴冠式の場」
〜「私は最高の権力を手に入れた」 (バス 妻屋秀和、テノール 清水徹太郎&合唱)
? ヴェルディ:歌劇「ドン・カルロ」から「ひとり寂しく眠ろう」
(バス・バリトン ジョン・ハオ)
? リヒャルト・シュトラウス:楽劇「サロメ」から「どうして私を見てくれないの?」
(ソプラノ 森谷真理)
? ワーグナー:楽劇「トリスタンとイゾルデ」から 「優しくかすかな彼のほほえみ」
(ソプラノ 田崎尚美)
? モーツァルト:歌劇「ドン・ジョヴァンニ」から「食事のしたくができた」
(バリトン 大西宇宙、バス 斉木健詞、バス 青山 貴、ソプラノ 船越亜弥、
ソプラノ 黒澤明子、メゾ・ソプラノ 山際きみ佳、テノール 清水徹太郎、
バリトン 迎 肇聡、男声合唱)
? ヘンデル作曲 モーツァルト編曲:オラトリオ「メサイア」から「ハレルヤコーラス」
ソリストおよび合唱全員
合唱:新国立劇場合唱団、二期会合唱団、びわ湖ホール声楽アンサンブル、藤原歌劇団合唱部
指揮:沼尻竜典
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
【案内人】 磯野佑子アナウンサー
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