再開されたとはいえ、部分的な開場にとどまっているらしいWiener Staatsoper。そんなわけで、5月末でと思っていたWiener Staatsoper Liveもは6月も続行のようだ。なんとか時間を作りながら見た、すべての作品をレポ。
・Elektra (エレクトラ)
6月3日ストリーミング。大好きなオペラで、エレクトラとクリテムネストラの母娘対決が聴きものだが、よく見ると、妹クリソテミスの存在も大きい。エレクトラ役のNina Stemmeの安定した歌いっぷりと演技に喝采!クリソテミス役のGun-Brit Barkminも堂々とした歌と演技で光っていた。指揮のMikko Franckもオケからしっかりとした音を引き出していた。
・Andrea Chénier (アンドレア・シェニエ)
6月4日ストリーミング。このストリーミングでは久しぶりのイタリアもの。初めて全曲を視聴。アンドレア・シェニエ役でJonas Kaufmann登場。歌ももちろんだが、演技も素晴らしいのが彼の凄いところ。ジェラール役のRoberto Frontaliも存在感溢れる歌と
演技が素晴らしい。マッダレーナ役のAnja Harterosも安定していたが、終曲の二重唱“La nostra morte è il trionfo dell'amor”でワンテンポ早く歌い終わってしまったのは残念!最大の聴かせどころなので、二人で燃え尽きるような絶唱が欲しかった。
・Fidelio Urfassung (Leonore) (フィデリオ第1稿「レオノーレ」)
6月5日ストリーミング。公演日は今年の2月1日だが、2月9日に現地で見た公演と全く同じキャストによるもの。
当日のことを思い出しながら見てみると、演出だろうが、レオノーレが2人で一役というのがおもしろい。序曲の後は刑務所内の殺風景な場面。そしてフィデリオに恋い焦がれるマルチェリーネのアリア、その後にマルチェリーネに心を寄せるヤキーノのアリア等々、現行版と比べると、曲の入れ替えや現行版にはない曲があったりする。一番大きい違いはセリフが多いことだろうか。
それにしても「囚人の合唱」への流れがよくわからなかったが...
耳に慣れ親しんだ現行版と比べるとどうしても戸惑いがあるが、別の曲だと思えば違った魅力が見合てくるかもだ。
なお、ロッコ役はこのストリーミングの「神々の黄昏」のハーゲン役でもいい味を出していたFalk Struckmann、その娘マルチェリーネ役は何でもこなせるChen Reiss
・Adriana Lecouvreur(アドリアーナ・ルクヴルール)
6月7日ストリーミング。タイトルだけは知ってる有名曲?で初視聴。公妃とアドリアーナ・ルクヴルールが恋敵となり、最後はアドリアーナ・ルクヴルールが毒殺されるというちょっと怖いお話。初めて見たからか、ストーリー展開と音楽の焦点が定まらない印象。アドリアーナ・ルクヴルールはAngela Gheorgiuが演じたが、2014年の公演で当時彼女は50歳にもなっていないが、明らかに声の勢いがない。それは公妃役のElena Zhidkovaの歌いっぷりと比較しても一聴?瞭然。また、彼女は自分だけで演技して全体に溶け込んでないというか、劇の中に入って行っていない印象。Massimo Giordano演じるマウリツィオとの愛の語らいも心ここにあらずといった感じ。四半世紀前のショルティ指揮コベントガーデンの「椿姫」はどこに行ってしまったのか...
・Boris Godunow(ボリス・ゴドゥノフ)
6月8日ストリーミング。この作品も2003年11月のキーロフ・オペラの来日公演で見ているようだが、記憶になし(笑い)
版が何種類かあるようで、かつ、残念ながら日本後字幕がないストリーミングだったのでwebであらすじを追いながら視聴。30分程度で場面が変わっていくので、付いていくのが大変...
ボリス・ゴドゥノフ役のRené Pape、ピーメン役のKurt Rydlが印象的。クセニヤ役でAida Garifullina も出演。1回の視聴では作品のよさはわからなかった。
・Aida(アイーダ)
6月9日ストリーミング。「オペラと言えばアイーダ!」と言われるくらい、オペラの代表格の作品なので有名曲は知っているが、意外にも全曲通して聴いたのは初めて!そんなわけでストーリーも「ああ、そうだったのか...」という具合。不幸にも?第三幕から日本語字幕が出なくなってしまい、視聴の集中度は落ちてしまったが、華やかな演出にバレエも加わり、イタリアオペラの醍醐味を味わわせてくれる作品であることは確か。
・Ariadne auf Naxos(ナクソス島のアリアドネ)
6月11日ストリーミング。今ストリーミング2回目の視聴。ウィーンの大富豪態で催される、余興としての劇中劇の話だが、この作品の魅力が少しわかったような気がする。
後半の本題?の、ワーグナーの大人のファンタジックな話を想起させるアリアドネとバッカスによる掛け合いより、前半の大富豪のわがままに振り回される作曲家や出演者のドタバタ劇の方が個人的には好み。また、Erin Morley演じるツェルビネッタの”Großmächtige Prinzessin”(偉大なる王女様)は素晴らしかった。
演出かもだが、最終シーン、劇中で散々愛を語り合ったアリアドネとバッカスだが、舞台裏に下がったとたんアリアドネの熱は冷め、バッカスがあきれるほどさっさと帰ってしまう一方、代わりに?惹かれ合っていた作曲家とツェルビネッタが抱擁を交わすなんて面白い。
妖精たち3人が頭に被った山高帽ならぬパイナップルの茎上の被り物、どこかで見たと思ったら、「ラインの黄金」のラインの乙女が被っていたものと同じ。両作品の演出者が同じ(Sven-Eric Bechtolf)なのでそれも納得。
・La fanciulla del West(西部の娘)
6月12日ストリーミング。初視聴。今回が初視聴の作品。ORF制作のためか、字幕なしのストリーミング。惚れた男を救うために、住み慣れた街とも仲間とも別れるある女の話。
事前にあらすじを確認しての視聴のため、個々のセリフはわからなかったが、場の雰囲気とキャストの素晴らしい演技で十二分に楽しめた。ミニー役のNina Stemme、ディック・ジョンソン役のJonas Kaufmann、ジャック・ランス役のTomasz Koniecznyがいずれも素晴らしい。
特に死を待つ直前のディック・ジョンソンの”Ch'Ella Mi Creda Libero E Lontano”(やがて来る自由の日)は、思わず涙腺が緩む名唱。それを聴いた鉱夫のおやじたちの「そうか、そこまで...」「しかたない」といった、感情を揺さぶられていることがわかる、何気ない顔の表情がいい。ただ、最後、ミニーとジャック・ランスが街を去ろ時、虹色の気球に乗ったのは場に合わなかった...気持ちはわかるけど。
それにしても、Tomasz Koniecznyがイタリアものを歌うのを聴いたのは初めて。どうも、イメージがヴォータンなんだよなぁ...
・Der Spieler(賭博者)
6月13日ストリーミング。初視聴。日本はもちろん、欧米でも演奏される機会は多くはないであろうプロコフィエフの作品。ドフトエフスキー原作の小説を元にリブレットは作曲者自身の手によるもの。お金に翻弄される人々を描いたものだが、ストーリーがリアルでシニカルなため、見終わった後は意気消沈。これがプッチーニやロッシーニだったら、喜劇にしそう...
ポリーナ役のElena Gusevaは美人で存在感が大。2011年のチャイコフスキー国際コンクールで聴衆賞を受賞したこともある若手だが、今後も大いに期待したい。
・Nabucco(ナブッコ)
6月14日ストリーミング。1998年、開場間もない新国立劇場で見た演目でもあり、若き日のムーティ指揮する、火の飛び出るような序曲が思い出される演目。父と娘の権力闘争と言ってもいいストーリーだが、今日のストリーミングは主役のナブッコを演じる Leo Nucci抜きでは語れない舞台。特に気がふれて王が普通のおやじになる演技は絶妙。
2017年2月の公演だが、当時彼はなんと75歳!その年で主役を張り、孫と呼べるキャストたちと堂々渡り合う歌唱と演技ができるなんて、奇跡的!日常から相当節制した生活をなさっていると思われる。
ただ、演出は現代風というか、王がスーツにコートを羽織って出てくるは、男性陣のほとんどがサスペンダーをしているは等々、違和感満載。壮大な歴史絵巻を堪能できると思ったら、俗なファミリードラマになりかねない。
演出家の方にお願い。どんな演出をしてもいいが、音楽あっての演出。聴衆は音楽を聴きに来るのであり、演出を見に来るのではない。自己満足的な演出は考えてほしいものだ。
・Un ballo in maschera(仮面舞踏会)
6月15日ストリーミング。これも有名であるにも関わらず、初視聴。仕える主の密会相手がなんと自分の妻であることに憤慨し、暗殺をしたが、諸事情がわかって自責の念にかかれる悲劇。
最大の見せ場と言ってもいいのは、第3幕第1場の、アメリアとレナートのアリアだろう。お互い傷つき傷つけれらた心模様が見事に歌で吐露されていた。華やかなシーンもいいが、オペラの神髄はこういう場面をどう表現するかにあるのではないだろうか。
アメリア役のKrassimira Stoyanova、レナート役のDmitri Hvorostovskyとも、単にベテランというだけでなく、200%それぞれの心情を見事に表現していた。
・Věc Makropoulos(マクロプロス事件)
6月16日ストリーミング。初視聴。なかなか聴けないヤナーチェクのオペラ。残念ながら日本語字幕はなかったためセリフの詳細は分からなかったが、ヤナーチェク独特の響きを堪能。
主役のエミリア・マルティを演じたLaura Aikin渾身の歌と演技は圧巻。他の配役も熱演。クリスタを演じたMargarita Gritskovaもその美貌も加わり存在感。
・Simon Boccanegra(シモン・ボッカネグラ)
6月17日ストリーミング。初視聴。数奇な過去を持つ父娘、そしてそれを取り巻く人々の愛を軸に描く物語。
シモン・ボッカネグラを演じたのはThomas Hampsonだが、彼のヴェルディは初めて聴いた気がするが、60歳を超えているとは思えないなかなかのもの(2018年5月の公演)。アドルノ役を演じたFrancesco Meliの張りのある高音もよかったし、アメーリア役のMarina Rebekaも歌、演技とも申し分ない。
・Kátja Kabanová(カーチャ・カバノヴァー)
6月18日ストリーミング。初視聴。夫も妻も、夫の母に精神的に支配されている中で起こった、妻の不貞が元となった悲劇。ストーリーは比較的シンプルだが、様々な角度から見ると違った視点が見えてくる作品。現実にあり得る内容なので、怖さも感じる。
演出だろうが、川から引き揚げた嫁の死体を足蹴りする姑の姿が、嫁に対する姑の思いを表している。
・Otello(オテロ)
6月19日ストリーミング。ヴェルディの作品の中では、個人的には最も接する機会が多い作品がいよいよ登場。期待が持たれたが...オテロをRoberto Alagna、デズデモナをAleksandra Kurzakと夫婦で共演という公演だったが、いま一つ伝わってこない。
声量的には申し分ないものの、オテロもデズデモナも役柄の感情表現が足りないため、訴えかける空気感が希薄だった。
・Macbeth(マクベス)
6月20日ストリーミング。初視聴。魔女の予言に惑わされたマクベスとマクベス夫人の狂気と悲劇の物語。
・Don Carlo(ドン・カルロ)
6月21日ストリーミング。初視聴。婚約者が自分の父と結婚してしまったことが悲劇の始まりの物語。ドン・カルロへの愛が復讐へと化したエボリの第3幕での熱唱、王妃エリザベッタに愛されず、息子ドン・カルロに裏切られた悲しみを歌う第4幕での国王フィリッポ2世の朗唱、ドン・カルロとの思い出を懐かしみながら切なく歌い上げる第5幕でのエリザベッタの哀唱など、ドン・カルロ以外の人物のアリアが印象的なのも面白い。ドン・カルロの友人でもあるロドリードを演じたのはPlácido Domingo。流石に外見は年を重ねたとはいえ、年齢を感じさせない(2017年の公演時、76歳)声量に驚愕の一言。ひと昔前なら主役を演じたであろうが、とにかく見事の一言に尽きる。
それにしてもエボリ役を演じたElena Zhidkovaのヴェールの歌”Nei giardin del bello saracin ostello”はよかったなあ...
・Chowanschtschina(ホヴァンシチナ)
6月22日ストリーミング。初視聴。ムソルグスキー好きのアバドの管弦楽集などで名前だけは聞いたことがある程度。残念ながら字幕なしのストリーミングだったのであらすじを読んでの視聴だったが、演出のためだろうが、あらすじとは違う?と思われる場面続出で内容の理解度は今一歩。オリジナルを踏まえた演出で見れば、全く違った印象だろう。
・La sonnambula(夢遊病の女)
6月24日ストリーミング。初視聴。女の夢遊病のため、一度は破談になりそうになったカップルが友人の支えで再びお互いの愛を取り戻す物語。
最大の聴かせどころは夢遊病の中、アミーナが歌う、「ああ、信じられない」”Ah! credea mirart”だろうが、次から次へ繰り出される、エルヴィーノ役のJuan Diego Flórezとアミーナ役のDaniela Fallyの、ハイCやコロラトゥーラが心地いい。
・Don Carlo(ドン・カルロ)
6月27日ストリーミング。先日見たばかりだが、Rámon Vargas演じるドン・カルロ以外は別キャストの映像。
そのRámon Vargasだが、声量的には全く問題ないが、いま一つ喜怒哀楽が足りないような気がする。CDを聴きているならいいが、映像で真近で見るとなると気になって仕方がない。
フィリッポ2世を演じたRené Papeは、21日のFerruccio Furlanetto同様、貫禄十分の演技。第4幕の「ひとり寂しく眠ろう」”Ella giammai m'amò”は絶品!ロドリーゴ役のLudovic Tézierもその鋭角的な声が素晴らしい。
・Rigoletto(リゴレット)
6月30日ストリーミング。何といってもリゴレットを演じたCarlos Álvarez の熱演が光るが、ジルダ役のOlga Peretyatkoも素晴らしい。彼女の演技力はピカイチ。オペラ歌手は時にはどんな姿勢でも歌わなければならないこともあるが、最後、息絶え絶えの中歌うシーンも完璧!
マントヴァ公爵を演じたJuan Diego Flórez、もちろん素晴らしいが、声質としては軽いので、ヴェルディよりはドニゼッティやロッシーニの方が向いている。
・Falstaff(ファルスタッフ)
7月1日ストリーミング。最終場面でのファルスタッフの「この世はすべて夢芝居。人は道化のために生まれた」が印象的な喜劇。ファルスタッフを演じたAmbrogio Maestriを始め、キャストが楽しそうに演じているのがいい。最後に子どもも交えて全員で人生を謳歌しよう!というような雰囲気もいい。
というわけで、フリーのストリーミングはこれにて終了。
まずは、この機会を提供してくれたWien Staatsoperには感謝の言葉しかない。
3月中旬から見た作品数を数えたら、56作品を82回見たことになる。こんなに集中的にオペラを見たのは初めてだし、今後もないだろうが、意外にも初めて観る作品が多かったため、自分にとって大きな財産となった。
以前の生活に戻るのは相当厳しい現状にあるが、ひとつでも多く楽しいことを見つけて、ファルスタッフの境地に達したいものだ。
そして一日でも早く、再びWienの地に行けることを念じている。
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