サウル@浜離宮朝日ホール
- 2014.01.13 Monday
- 22:42
クラシックファンでさえ、ヘンデルの声楽曲=メサイア、しか知らない人がほとんどの現状の中で、10年ほど前から正しいヘンデル像理解のために、声楽作品を年1回演奏し続けている、HFJ(ヘンデル・フェスティバル・ジャパン)による演奏会だ。
CDの世界では、当時はある意味「奔り」の時。ホグウッドやピノックがそれまでの古楽のイメージに「清新さ」を吹き込んだ。あれから30年余り。いまでは多様な指揮者、演奏団体が凌ぎを削っている。そこに共通していることを一言で言い表すなら「快活さ」だろう。
単に耳触りがいいだけでは支持は得られない。研ぎ澄まされた刃のように、時に大胆に切り込む生命力が必須。今日の演奏が単に郷愁を得るためのものではなく、次に繋がる演奏になるかどうかも興味大だ。
そうは思って演奏を聴き始めたが、最初のsymphonyのメロディがなった時は、当時に帰り立ったかのような錯覚に陥った。さすがに感慨ひとしお。。。続くコーラスの「How excellent thy name...」が始まった時はもうダメだ。心が熱く語り始めた「歌いたい!」その後も、次々と名曲が続き、あっという間の4時間だった。
演奏会の成功は、出演者全員の熱演の賜物。
まず、ソロストが実力者ぞろい。牧野さんの太くそしてハリのあるバス、中村さんの骨太のメゾ、野々下さんの深みと滑らかなソプラノ、辻さんの軽やかであるが芯があるテノール、広瀬さんの自由自在感のあるソプラノなどなど。作品がオペラと言ってもいい劇的性格を持っているので、迫真の演技様まで漂う。
オリジナル楽器によるオケもいい。こちらもみなさんソリスト級だろう。特に印象深かったのはポジティフオルガン。ヘンデルのオラトリオにとってオルガンはなくてはならないものだが、第二幕のsymphonyでの森さんの演奏は、まさに音の連なりといい、間の取り方といい絶妙。理想的なヘンデルのオルガン演奏だ。こんなステキな演奏を聴けただけでも、今日来た甲斐があるといってもいい。
肝心の合唱も熱演。終始安定した演奏で演奏会を盛り上げた。ただ、演奏が始まったころは男性陣が力が入っていた感がないでもないが...
三澤さんの指揮も最後まで「快活さ」を失わず、走りぬいた感がある快演。途中、ソリスト、オケと息が合わないところもあったが、些細なことだ。
日本でヘンデルの声楽作品が演奏されない理由としてよく言われているのが、旧約聖書に基づくものでなじみがない、作品の演奏時間が長時間に及ぶなど。確かにその通りだが、逆によく演奏されるオペラだって、そういったものに該当するものはたくさんあるのに。。。
結局、もっと多くの人にヘンデル作品の魅力を伝えていくには、高水準の演奏を継続的に続けていくことしかない。最近ではBCJが「ユダス・マカベウス」を演奏したりしているが、このHFJも一翼を担うべく、水準をもっと高めながら、継続的な活動をしていってほしいと、ひとりのヘンデルファンとして願うばかりである。
夢はヘンデルのオラトリオ全曲演奏を聴くことだが...さて、次に「サウル」を日本で聴けるのはいつになるのか???
P.S. 何年かぶりに書庫にしまってあった、出演当時のパンフレットを眺めてみた。全曲演奏ではないカットありの演奏だが、「日本初演」だった。
〈データ〉
第11回 ヘンデル・フェスティバル・ジャパン
オラトリオ サウル 全曲公演
2014.1.13(月) 15:30
浜離宮朝日ホール
サウル:牧野 正人(バス)
ダヴィデ:中村 裕美(メゾ・ソプラノ)
ミカル:野々下 由香里(ソプラノ)
ヨナタン:辻 裕久(テノール)
メラブ:広瀬 奈緒(ソプラノ)
大司祭、アブナー、アマレク人:前田 ヒロミツ
合唱と管弦楽:キャノンズ・コンサート室内合唱団&管弦楽団
指揮:三澤 寿喜
【料金】 S席 7,500円