ジューリオ・チェーザレ@新国立劇場

  • 2015.05.23 Saturday
  • 10:47
ヘンデルのオペラ。「メサイア」に代表される20を超えるオラトリオよりはまだ演奏される機会があるとはいえ、日本では希少価値の部類に入る分野だ。それも新国立での上演とあっては逃すわけにはいかない。

”overture”が始まった。きびきびとした冴える演奏、なんと心地いいことか。さすがヘンデル!
物語はクレオパトラとチェーザレが苦難を乗り越えて愛を誓い合うというもの。これだけ聞けば「よくある話。またか...」なんて思う方も多いはず。しかし現実はさにあらず。
レチタテーヴォも多く、有名なアリアがあるわけではない。そうであるからこそ、作品の真価や歌手の力量がストレートに試されるような作品だ。

最も印象的だったのは、クレオパトラ役の田崎さん。
作品の演出か、愛くるしい、チャーミングなクレオパトラ役は見事!まるで、AKBのこじはるが演じているいるかのような(まったくそっちの分野はわからないので勝手な想像ですので...)キュートさ。終始安定した、伸びやかで明るいと歌唱と相まって、チェーザレのみならず、聴衆の心を鷲掴みにした感。
アッキラ役の勝村さんは声の響きや奥深さでは他を寄せ付けない圧倒的な存在感。同じ声部として魅力極まりない。トロメーオ役の福間さんも舞台狭しと動き回りながらアリアを歌うというシンドイ状況で、その魅力を十二分に伝えた。
そしてマエストロ鈴木。長く聞き慣れない作品を最後まで緊張感をもって引っ張った牽引力は並々ならない力量だ。

初めてヘンデルのオペラ聴いてみて感じたこと。
上演時間は2回の休憩を挟んでの3時間半弱。だが、長いとは感じなかったのは、身の丈の喜怒哀楽を散りばめ、聴衆を飽きさせないエンターテインメントに徹した作品作りにあるのではなかろうか。ヘンデルの巧みさを感じる。
また、音楽に力があることは大前提だが、バロックのオペラこそ、演出の如何によって作品の受け止め方が大きく違ってくる。この作品が欧米でどんな演出をされるのかわからないが、今回の演出が聴衆を舞台にくぎ付けにしたことは確かだろう。
奏者と聴衆との関係もよかった。アリアの後の拍手の終わり方も実に自然。何回かマエストロが次曲に入りたいけど入れない状況もあったが、聴く側も拍手は手短に終わらせる姿勢がありあり。

会場には普段のオペラ上演に比して多くの若者が集った。主役がこれからの世代が多いためその応援かもしれない。が、メジャーとは言えない今日の演目に満員の聴衆が聞き惚れ賞賛の嵐を捧げたことは、今後の新たな流れに繋がると大いに期待したい。
なんとも晴れやかな気分になる一夜だった。


〈データ〉

二期会ニューウェーブ・オペラ劇場
2015.5.23(土) 17:00
新国立劇場 中劇場

ヘンデル:ジューリオ・チェーザレ
 オペラ全3幕 日本語字幕付き原語(イタリア語)上演

ジューリオ・チェーザレ:杉山 由紀
クレオパトラ:田崎 美香
セスト:今野 絵理香
コルネリア:池端 歩
トロメーオ:福間 章子
アキッラ:勝村 大城
クーリオ:杉浦 隆大
ニレーノ:西谷 衣代

指揮:鈴木 秀美
管弦楽:ニューウェーブ・バロック・オーケストラ・トウキョウ

【料金】 S席 10,000円






 

ブルックナー8番@オペラシティ

  • 2015.05.09 Saturday
  • 22:23
演奏を聴いて落涙したのはいつ以来だろうか。そして演奏に接した思いを書かずにはいられない強い衝動に駆られたのも久し振りである。

ここ何回かマエストロ飯守の演奏に対しては正直物足りなさを感じていた。が、今日のブルックナー8番は聴く側の期待に対して真正面から応えてくれた、本来のマエストロらしい”極演”だった。

第一楽章からその予感はあった。冒頭の不安気味なトレモロやその後にくるトゥッティで既に演奏に引き込まれていく。よく聴いてみると強振りや強弾きはないのに音が分厚いのだ。目の前の一音一音がしっかり鳴り、視覚の中に音が立って見えているような感覚を覚えた。
第二楽章のスケルツォも好調。下手側の2階席から見たので低弦側がよく見えたが、普段冷静な弾きっぷり(だと思っていた...)のヴィオラトップ渡邊さんの「これでもか!」とも思える全身で弾く姿に納得。
”Adagio. Feierlich langsam, doch nicht schleppend”と記された第三楽章。楽章の途中でしばし目を閉じて聴いていると、純粋に音だけが心の中に自然に入り溶け込んできた。ふと日常の雑念が頭をよぎった時、救われたとの思いを感じる自分がいた...
そして、第四楽章。冒頭、弦の4分音符の連打を聴いたとき、正直「来た、来た、来たぁー」との期待感に胸湧き上がる自分がいた。トゥッティでも音の強震もなく、極上のバランスを保っていることはこれまでどおり。そのため、”柔らかいが強い音”が芳醇な響きとなって会場を包み込む。フィナーレは嗚咽をこらえるのに精いっぱいだった。

こうしてマエストロもオケも最後まで集中力は途切れず、壮絶極まる”極演”となった。
耳の肥えた聴衆も何年かに一度といえる演奏に全身で衝撃を受けたのであろう。終演後会場は「おぉーおぉー」と人間の声とは思われない地鳴りのような歓声が交錯する、異様な興奮状態に包まれた。自分の感じたことが他の聴衆と共感できたのは何よりだ。

今日のような極演を聴いて考えた。
正直、シティフィルより技術的に上手いと思えるオケは日本の中でもある。しかし、「心に沁みる音楽を提供する」とは技術だけではなし得ない。必要なのは、曲に対する「共感」と演奏者同士の「信頼」ではないだろうか。

15年の長きにわたって常任指揮者のポストにあって、苦楽を共にしてきた指揮者とオケ。特にドイツ系音楽への造詣の深さは自他とも認めるマエストロにオケが多くの薫陶を受けたことは想像に難くない。「共感」と「信頼」の醸成はゆっくりではあるが確実に進んでいった。
そして常任退任。とはいえ、いや、離れたこそより客観的になって見えてくるものがあるはず。常任という、いい意味で頸木から解き放されて一皮むけた感覚。それが今日の演奏の一助になった面もあるやもしれない。
今日の音はこうした、飯守=シティフィルがこれまで歩んできた道のりがあったればこそ出せた音であり、いくら超一流と呼ばれる指揮者とオケであったとしても、他では絶対真似できないことだ!だからこそ価値がある。

世の中、スピード重視・効率重視・結果重視でなんでもすぐ結果を求めたがるが、オケも同様。日本のオケに限った話ではないだろうが、有名指揮者を連れてきて、短期間にオケの能力向上や集客効果を狙おうとする姿。興行である以上それは当然のことであるが、あまりに偏ると音が上辺だけを徘徊し、心の琴線まで到達する演奏ができないため、よき聴き手が離れていくような気がする。

今後、常任指揮者の期間が10年を超えるようなことは考えられず、飯守=シティフィルのように「音をじっくり作り上げていく」姿は望むべくもない。しかし「良い聴衆が良い演奏家を育てる」ともいうので、われわれ聴き手ができることもある。それは先入観を捨てて聴くことだ。
たとえば今日の演奏。仮に演奏者は公表せず、純粋に音楽だけを聴き、その後「さて、今日の演奏はどの指揮者とオケ?」という三択の問題。その中に海外の有名な指揮者やオケが入っていたら、少なからず海外組に票を入れる方もいるかと。
今日一番気になったのは、7割程度の入りだったこと。満員でないのが不可思議だ。好き嫌いはあるだろうがいままで飯守=シティフィルの演奏を聴いたことがない方に一言。

「一度聴いてみなはれ!ワクワクするから!」


〈データ〉

東京シティフィルハーモニック管弦楽団 第289回 定期演奏会
2015.5.9(土) 14:00
東京オペラシティ コンサートホール

ブルックナー:交響曲第8番

指揮:飯守 泰次郎

【料金】 B席 4,200円



 

五月の薫風に誘われて@内村鑑三の聖書講堂

  • 2015.05.03 Sunday
  • 22:34
大音さんからご案内があった演奏会に行ってきた。場所は三年半ほど前にも行ったことがある「内村鑑三の聖書講堂」。100名ほどでいっぱいになってしまう趣のある木造の建物だ。

企画&監修の米谷さんによれば、五月の息吹を感じてもらいたいために各国の五月に因んだ曲を集めてみたとのこと。ウタをやっているとはいえ、普段いわゆる歌曲は聴く機会はなく、どうしてもオペラアリアに興味がいってしまう。であればこそ、ドイツ、イタリア、ロシア、そして日本の歌曲を聴けるのはいい機会だ。

みなさんキャリアを積まれている方ばかりなので、一曲一曲に思いを込めて歌う姿は流石にプロ。たとえ曲が初めて聴く曲であっても何かが伝わってくる。
全曲聴き終えて、ウタの核心ははやり「心」。いくら、大音量で音符どおりに歌っても、なにをどう伝えるのかがなければ「ウタ」ではないとつくづく再認識。それはプロ、アマあるいはソロ、合唱はまったく関係なし!

さて、大音さんは5曲歌ったが「春の声」は圧巻。メロディはあまりにも有名なので誰でもご存知だとは思うが、歌入りに接したのは初めて。歌曲の域を超えて10分近く歌いっぱなしの、オペラアリアのようなドラマチックな曲だが、大音さんは見事に歌いきった。
「初めて歌った」との終焉後の大音さんの談だが、そうとは思えないくらい自らのものとしていたのはうれしい限り。
他にも個性的な歌手の方も知ることができて、有意義な2時間だった。

ピアノの津島さん、テクニックは抜群!曲の情感もたっぷり織り込む弾き方は並ではない。ただ、ピアノが響きすぎの感...屋根を半開きでもよかったかも。


〈データ〉

1.シューマン:こよなく麗しき五月に Op.48-1
2.モーツァルト:春への憧れ KV596
3.シューベルト:春に D.882
4.ベートーヴェン:5月の歌 Op.52-4
5.ヴォルフ:彼は何処へ
6.ブラームス:五月の歌 Op.43-2
7.J.シュトラウス:春の声 Op410
8.ティリンデッリ:おお、春よ!
9.デ・クルティス:忘れな草
10.チオッフィ:五月の晩
11.チャイコフスキー:何故? Op6-5
12.ラフマニノフ:リラの花 Op21-5
13.ラフマニノフ:春の水 Op14-11
14.橋本國彦(作詞 西條八十):お菓子と娘
15.山田耕作(作詞 北原白秋):あわて床屋
16.清水脩(作詞 室生犀星):春の寺
17.小林秀雄(作詞 岩間純):飛騨高原の早春
18.小林秀雄(作詞 薩摩忠):瞳
19.中田喜直(作詞 三井ふたばこ):むこうむこう
20.中田喜直(作詞 寺山修司):悲しくなったときは
21.中田喜直(作詞 三好達治):桐の花
22.中田喜直(作詞 深尾須摩子):子守唄

ソプラノ:石原 妙子(8,11,12,13,17,20)
ソプラノ:大音 絵莉(3,5,7,16,19)
メッゾソプラノ:米谷 朋子(2,6,9,15,18,21)
バリトン:米谷 毅彦(1,4,10,14,22)

ピアノ:津島 圭佑

【料金】 自由席 3,000円

 

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