ジークフリート@東京文化

  • 2016.04.07 Thursday
  • 22:32
マエストロ・ヤノフスキによる東京春祭の「リング」も「第2日」
「序夜」「第1日」とも絶賛だったが、この「第2日」は自分もワーグナーに耳慣れたせいか、これまでを上回るであろう極上の出来。鮮烈な印象を残してくれた。

兎にも角にも、ハイレベルなソリスト陣を抜きにして、今回の成功を語ることはできない。
10分20分歌い続けようと全く減衰することのない強靭な声量、全身から発せられ会場内に響き渡る懐深い声質、明瞭極まりない発音、そして歌い込むことでしか体得できないであろう音楽表現。どれが欠けてもワーグナーの音楽に近づくことはできないと思われるが、今回はどれ一つ欠けることなく、すべてが出そろった感である。特にジークフリート役のAndreas Schager,ミーメ役のGerhard Siegelの歌いっぷりは驚異的。仮にプロの方が聴いても脱帽であろし、ワーグナー歌手なら垂涎の的であることは間違いない。

「歌と音楽が一体となって...」とはよく言われる表現だが、特にそれが顕著であるワーグナーの音楽の魅力を考えてみた。
たとえ歌詞の意味が分からずとも、歌もある意味管弦楽の一部となって取り込まれ音楽に広がりを与えてくれる、想像力を与えてくれる存在としてキラ星のごとく存在している。
第一幕フィナーレの ”Her Mit Den Stucken, Fort Mit Dem Stumper” からのミーメとジークフリートとの剣を鍛えるやり取り、そして”Heil Dir, Sonne! Heil Dir, Licht!” からの第三幕のブリュンヒルデの目覚めから終幕までなどは特に印象深い。
そんなことを考えると、彼の音楽は耳でだけ聴くのではなく、体全体を使って楽曲のすべてを吸収しきることでしか満足感を得られないものであろう。絶えず流れている川の流れの中で、早瀬の白い気泡を眺めていても川の全体像をつかむことは無理なように、動きを止めない彼の作品から断片的にアリアっぽいものだけを取り出して聴いても、作品の核心に迫ることは困難だ。

管弦楽はN響だが大健闘。驚くほどの鋭い、引き締まった合奏力を披露していた。日ごろから評価の高いドイツ的な響きがより深まった感があり心地いい限り(因みに、今回のプログラムにはゲスト・コンマスとしてライナー・キュッヘル氏の名が初めてクレジットされていた)

そしてそして今回もそんな”極演”を平然とやってのけたのが、マエストロ・ヤノフスキ。
最後まで一音たりとも音楽が揺ぐことなく、流れが滞ることなく、一筆書きのように終着点を見極めて音楽を作っていく構成力の高さは尋常ではない。たぶん歌手もオケもなんらストレスも感じることなく、マエストロの差し出す”流れの棒”に素直に乗って、楽しんで演奏し切れたからこそ名演ができたのではないだろうか。
素人目には何らアピールするような仕草はまったくないのに、どうしてこんな響きが出せるのか、まさに神がかり的。本来指揮とは心のうちでするものなのかもしれない。今年のバイロイトに出演するというがある意味で当然というべきか。

来年の「第3日」まで続くかのような錯覚さえ覚えたカーテンコールの嵐を聴きながら、興奮の余韻はいまだ冷めやらず。


〈データ〉

東京春祭ワーグナー・シリーズ vol.7
「ニーベルングの指輪」第2日 ジークフリート
2016.4.7(木) 15:00
東京文化会館 大ホール

指揮:マレク・ヤノフスキ
ジークフリート:アンドレアス・シャーガー
ブリュンヒルデ:エリカ・ズンネガルド
さすらい人:エギルス・シリンス
ミーメ:ゲルハルト・シーゲル
アルベリヒ:トマス・コニエチュニー
ファーフナー:シム・インスン
エルダ:ヴィーブケ・レームクール
森の鳥:清水理恵
管弦楽:NHK交響楽団(ゲストコンサートマスター:ライナー・キュッヒル)

【料金】 C席 9,300円

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