ドヴォスタ@愛知県芸術劇場
- 2016.09.30 Friday
- 11:57
声楽曲の中では意外と?演奏されているドヴォルザークの「スターバト・マーテル」。名古屋で演奏会があるというので行ってきた。
開演時間が「18:45」と意外な時間だった?が、時間になってステージに現れたのは指揮のスワロフスキー氏と通訳の方。その時やっと理由がわかった。マエストロは母国語のチェコ語で作品への熱い思いを語ったのだった。
自らが指揮した曲の演奏回数を付けていること。その中でもNo1は圧倒的に「新世界より」だが「スタバト」は自分も深い愛情を持っている作品であり、指揮するのは今日で35回目(うち日本では過去2回)であること。今日は母国で演奏した時のソリストを招いたこと。オケも合唱も今日のために全員で準備してきたこと。チェコの作曲家の作品が日本でも好まれていることに嬉しく思っているが、今日の演奏を聴いてこの曲も好きになってほしいこと...等々真摯な姿勢で話されていたのが印象に残る。
さて、そんな前振りの後、1曲目が始まった。10曲から構成される作品の中では20分余りと一番長い演奏時間を要する。
テノールの哀愁に満ちたppでの「Stabat Mater」に始まり、ユニゾンに移行。次はソプラノにバトンタッチ。その後各パートに展開されながら「Lacrimosa」でひとつの頂点となるffzとなる...そして合唱のppが終わるとテノールソロが高らかに「Stabat Mater」と歌いあげる。自分も気が付かないうちに、目頭が熱くなってきたのは音楽の力か...
それにしても、「2分の3拍子での四分音符6つ」という、1曲目全体を支配するこの音型はなんと魅力的なのだろうか。じわじわと人間の感性に迫り、自然とその世界に引き込まれてしまう。
ソリストはマエストロが自ら招いたとあって曲を表現するには申し分ない出来。あえて言えばピンと真っ直ぐ高音が伸びるテノールや重すぎず軽すぎない響きのバスなど、男声陣がより印象に残った。
合唱も十二分の出来。今日のために地元の音大生からなる合唱団が編成されたようで人数は60人程度。最初「少ないかな?」と思ったがまったく問題なし。全曲を通じてメリハリをきかせた演奏を繰り広げた。作品の性質や指揮者の意図を十分理解し的確に表現した結果だ(聴いた席がステージ真横のP席だったので、正面で聴いていたらもっとよかったなあ。。。)
あえて一つ欲を言うなら、終曲の10曲目でソロ・合唱とも怒涛のような「Amen」が終わった後、いきなり合唱だけffのままアカペラとなり「Quando corpus morietur, Fac, ut animae denetur Paradisi gloria」と歌う個所がある。ここは合唱の聴かせ所。キビキビとした気持ちいいほどのパラレル感があれば、よりその前後が引き立ったような気がする。
いずれにしても、マエストロの熱い思いは空回りすることなく演奏者全員に伝わり、聴衆にも深い感銘を与え、共感を得たことは確か。終演後場内は惜しみない拍手で満たされた。マエストロ自身もタクトを下すと、満面の笑みでソリストに握手を求める姿を見ると満足この上ない様子だったことが伺える。
今日の秀演を聴いて考えた。
名古屋という大都市に本拠を構えるオケであっても、声楽入りの作品を演奏するには相当な覚悟が必要ではないだろうか。経費的なことはもちろんのこと、ある一定以上の水準を確保するため合唱団をどこに依頼するかは団の評価に関わる問題だ。であるからこそ、”一発勝負には必ず勝たなければならない”というプレッシャーがオケだけの時よりあるような気がする。
ここにも書いたが、3年ほど前に聴いた札響の「戦レク」も素晴らしい出来だった。時間をかけて、じっくり成功に導く姿勢はその時も今日も全く同じだ。そのあたりが秀演が生まれるの理由ではなかろうか。
以前、岐阜のある町にあるパン屋さんが遠くから買いに来るほど評判になり、大いににぎわっているというニュースを目にした(今でも賑わいは同様であるらしい)。その店主がインタビューに答えて話していた言葉がなんとなく心に残っている。
「”地方だからこの程度の味...”とお客さんから思われたくなかった。」
確かに、何かを提供される側も、それが地方でなら「まあ仕方ないか...」と半ば期待もせず割り切っている感覚はある。逆に提供する方も、そんな気持ちはないとしても、結果としては”最高のものを提供する”という気概は遠くなってしまう現実。
彼の言葉から、どんな気持ちで”ことにあたる”ことが重要かを改めて考えてしまった。
東京は音楽市場としては日本の中ではライバルはいないが、すべてがあるわけではない。たとえ地方でも日々努力し成果を上げている団体は数多ある。きょうもそんなことを感じさせてくれた演奏会だった。名古屋まで来たかいがあったというもの。
今後も、地方での演奏会を探す楽しい旅は続きそうだ。
P.S.1 初めての訪れるコンサート会場。特に個性的とは言えないが、舞台と客席最深部との距離感、どの席からも確実に舞台を望める視認性の良さ。アクセスも良く、ゆったりとした時間を過ごすには居心地いいホールだ。
P.S.2 この曲を歌ったのが2008年3月。あれから6年半も経っているなんて...時のうつろいのなんと早いことよ
〈データ〉
セントラル愛知交響楽団 第150回定期演奏会
2016.9.30(金) 18:45
愛知県芸術劇場コンサートホール
ドヴォルザーク:スターバト・マーテル
指揮:レオシュ・スワロフスキー
ソプラノ:エヴァ・ホルニャコヴァ
メゾ・ソプラノ:カルラ・ビトゥナーロヴァー
テノール:オトカル・クライン
バス:ヨゼフ・ベンツィ
合唱:名古屋芸術大学スターバト・マーテル合唱団
【料金】 2,200円