フィデリオ@オペラパレス
- 2018.05.20 Sunday
- 23:12
新国立のオペラ芸術監督として最後の指揮であろう、マエストロ飯守による「フィデリオ」に行ってきた。
演出はワーグナーの曽孫、カタリーナ・ワーグナー。
舞台は当初二層構造で進む。2階部分が看守部屋、そして1階部分が地下牢。
冒頭、なかなか味のきいた演出。
音楽が鳴り始めると、棚状に配された何もない2階の空間に男女二人が現れ、手際よく緑のカーペットを敷き、バラ?一輪を規則的に配置。そしてその作業が終わるともに、舞台後ろの扉が開き、花園を思わせる彼方からピンク色のドレスを纏ったマルツェリーネが登場。音楽との間もピタリと決まり、彼女の伸びやかな演技もいい。
その後は、薄暗がりの舞台で、時折地下牢の中でフロレスタンの動く姿が見える中、物語は進行していく。
第1幕後半の、ピツァロの企みを知ったレオノーレのアリアでは、2階にいるピツァロにライトが当てられ、その影が1階の壁に投影。夫が入るかもしれない穴掘りの手伝いをしているレオノーレが激しい怒りを込めて歌いあげる中で、その影に対してナイフを突き刺す仕草を持ってきた。
その後はゆっくりと舞台装置が上昇したかと思うと、地下2階部分が姿を現し、静寂の中から「囚人たちの合唱」が始まった...
印象に残ったソリストに一言。
まず、マルツェリーネを歌った石橋さん。たぶん初めて聴かせていただいたが、その希望に満ちた晴れやかな演技と伸びやかな歌唱はイメージどおり。これまで、フィデリオは何回か見たものの、正直マルツェリーネ役はあまり印象に残っていない。が、今回は違う。経歴を拝見すると中堅どころだと思うが、今後も何らかの役でぜひ聴きたい、清々しい声質の持ち主だ。
ロッコ役の妻屋さんがまた素晴らしかった。これまで何回かはライブで拝見しているが、今日のはその中でもピカイチ。見栄えのする立派な体格から発せられる太い声は、普段以上に響き渡り、演技力も申し分ない。
レオノーレ役のリカルダ・メルベートとフロレスタン役のステファン・グールドのお二人は、期待通りの出来。特にメルベートの、舞台狭しと思えるくらい動き回る演技と、天井を突き抜けるかのような圧唱には脱帽。体格と声量は必ずしも一致しないが、今回は違った。万雷の拍手で称えられた。
合唱もいい。「囚人たちの合唱」では、自然な形で弱音から入った合唱が、徐々に人影が露わになるのと比例するかのようにじわじわ広がっていく。しかし、決して爆発するのではなく、ひとりが発する声量は変わらずに人数分だけ増していく感じだ。
オケの東響も健闘。もう少しダイナミックさもほしいところもないではなかったが、最後まで安定した演奏を繰り広げたことは称賛に値する。
そして、すべてをまとめあげたマエストロ飯守。従来のイメージよりおとなしめの指揮かな?とも感じたが、音楽のつくりそのものはまとめきれていた。マエストロの別な側面を垣間見た指揮ぶりだった。
しかし、このオペラ、ストーリー的にはシンプルで決して面白味のあるものではない。しかし、改めて字幕を追ってみると、その一言一言に込められた思いがズシリと心に響く。ベートーヴェンはこのただ一曲しかオペラと言えるものは作曲しなかったが、だからこそ伝えたい思いは、痛いほど伝わってくる。
欧米では「第九」は特別な時にしか演奏されないようだが、たぶんこの曲もそうそう演奏される曲ではないだろう。詩を読んで改めて感じた、さすがに楽聖である。
〈データ〉
新国立劇場 開場20周年記念特別公演
ベートーヴェン:歌劇「フィデリオ」(全2幕 ドイツ語上演日本語字幕付き)
2018.5.20(日) 14:00
新国立劇場オペラパレス
指揮:飯守 泰次郎
演出:カタリーナ・ワーグナー
ドン・フェルナンド:黒田 博
ドン・ピツァロ:ミヒャエル・クプファー・ラデツキー
フロレスタン:ステファン・グールド
レオノーレ:リカルダ・メルベート
ロッコ:妻屋 秀和
マルツェリーネ:石橋 栄実
ヤキーノ:鈴木 准
囚人1:片寄 純也
囚人2:大沼 徹
合唱:新国立劇場合唱団
管弦楽:東京交響楽団
【料金】 A席 21,600円